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​現場リポート:2023年5月27日

本講座は呼吸器領域の特に肺炎・COPD・喘息に絞って、全国よりすぐりのスペシャリストが集合し、約半日に渡ってグループディスカッションやクイズ形式も取り入れながら講義をしていただきました。

 

冒頭の挨拶にて今回メインで企画担当していただいた長尾大志先生(島根大学医学部附属病院 病院医学教育センター センター長/准教授)は「現在高齢者の誤嚥性肺炎が増えているが、これこそジェネラリストの力が必要になる」と総合診療科医こそ呼吸器診療が重要と話し、本講座はスタートしました。

 

長尾先生はX線やCTの画像の成り立ちから分かりやすく解説されている「レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室、日本医事新報社」(私も研修医時代に購入しその分かりやすさに感激しました。)の執筆や、YouTubeチャンネルで、呼吸器疾患に関し多くの解説動画を公開されるなど非常に精力的に活動されており、メディアを通じて身近に感じておりました。

今回の参加者は約90人で、全国津々浦々より非常に多くの先生方が参加されており、呼吸器診療に対する関心度の高さが伺えました。

まずは長尾先生による肺炎診療についての講義がありました。ここでは知っているようで知らない肺炎ができるメカニズムから解説いただきました。なぜ細菌性肺炎は急性に増悪するのか、膿性痰が排泄されるのかなど、漫画を用いながらわかりやすく解説していただきました。その後は咳嗽、発熱にて来院される患者さんに対してどのように診断していくのか、コロナウイルス感染症にも触れ、診断後の抗菌薬選択についても教えていただきました。先生の講義を聞いて感じたのが、日々当たり前のように行っている肺炎の診断そのものが実は非常に難しく奥が深いということです。講義中ではAMR問題にも触れ、患者さんに対して不利益にならないような治療に努めたいと思いました。

次に宮上 泰樹 先生(順天堂大学医学部 総合診療科学講座 助教)によるCOPD、喘息急性増悪治療についての講義がありました。ここではグループに別れ、救急外来で出会うCOPD、喘息急性増悪患者について個別の事例を元に、必要な問診・身体診察や、その診療に対してのフィードバックについてディスカッションしました。ディスカッションでは活発な議論が飛び交い、問診や身体診察においてそれぞれの先生方がどのようなことを重要視しているのかを知ることができました。その後の講義ではWord、Phrase、Sentenceにて重症度を判断することや、喘息にレントゲンが必要でないこと、予後予測ツールなど明日の診療から早速活用できる様々なテクニックを教えていただき60分という短い時間でしたが非常に多くの学びがありました。

次はCOPD および喘息の慢性期管理と吸入をテーマに、近藤 猛 先生(名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター)、瀧藤 重道 先生(グラムスキー薬局、薬剤師)に講義をいただきました。慢性期管理はプライマリ・ケア医にとっては特に診療の面で関わる部分が多い領域だと思います。近藤先生が特に重要視していたのが治療の目的が患者の生活をいかに良くするか?にフォーカスを当て、患者個々人に応じた多面的な評価が必要であることでした。ガイドライン一辺倒ではない治療が求められており、喘息・COPD治療の難しさを感じました。管理戦略としては完全禁煙が有用であるのはもちろんのこと、それにより患者との関係性を破壊しないようなLEARNのアプローチや治療の意味を患者と共有するなど薬剤治療のみにとどまらない喘息・COPD治療の奥深さを感じることができました。
また喘息治療においてアドヒアランスに関して常に問題になることが多い一方で、患者個人個人に合わせた吸入器具の使用、吸入方法の指導に関しては学習する機会があまりないのが実情です。今回は瀧藤先生より薬剤師の観点から吸入指導に関する講義をいただきました。力が入らない、目の悪い高齢者でも使いやすい器具や、ロックアウト機構(設定された回数以上は薬剤が出ない)があり薬剤の空打ちを防いでくれる器具があるなど吸入器具に対する工夫に驚きました。各社の製品特性を理解しそれぞれに合わせた処方を心がけようと思いました。

次に慢性咳嗽についての講義を長野 広之 先生(京都大学 大学院医学研究科 医療経済学分野 博士課程)に頂きました。長野先生は「家で診ていく誤嚥性肺炎: チームでつむぐ在宅医療(南山堂)」等の本を多く執筆されております。遷延性咳嗽もプライマリ・ケアの現場においては触れる機会の非常に多い疾患である一方で軽く考えてなんとなく対症療法にて経過を見てしまうことも多いと感じています。本日の講義ではクリアカットにフローチャートに基づいた診断に至るまでのプロセスについて解説して頂きました。その中でも見逃してはいけない肺がん、結核に関してや診断が難しい咳喘息やアトピー咳嗽について日常診療において疑問に思うことを中心に解説して頂きました。

最後は長尾先生より胸部X線写真の読影について基本のお作法から、見逃しやすい部分の読影のコツ等について講義頂き、最後はクイズ方式にて参加者全員で読影に挑戦するなど非常に和気あいあいとした雰囲気であっという間に終了の時間となりました。

 

 

全体を通じて感じたのは参加者皆さんの呼吸器診療に対する関心が非常に高いことです(冒頭でも言いましたが…)。質問は随時チャットにて受け付けていたのですが、1講義について10以上の質問が出るのは当たり前で、参加された先生方が日常診療で困っていることから、非常にアドバンスな内容まで様々な質問が上がりました。その一つ一つに対して先生方がすぐに回答され、長尾先生が回答に加わる場面もあるなど非常に白熱した議論になりました。

 

誤嚥性肺炎に始まり、喘息、COPDはプライマリ・ケア医にとって切っても切れない存在であると思います。私も去年地方の小さな総合病院で勤務していた際は、毎日のように肺炎の患者さんに対して治療に携わっていました。冒頭に長尾先生が話されたように超高齢化社会を迎える現在において、呼吸器疾患に対する見聞を深めておくことは必須であると感じております。その中でスペシャリストたちに講義していただけた今回のプログラムは非常に貴重なものであり、将来の診療に必ず大きな助けになると思っています。どんな方でも有用な講座であるため、迷っていたらまずは受講されてみることをおすすめいたします。

【開催日】
2023年5月27日(土)

【テーマ】

診療実践コース:呼吸器領域

【講師】

長尾 大志
(島根大学医学部附属病院病院医学教育センター)
宮上 泰樹
(順天堂大学総合診療科学講座)
近藤  猛
(名古屋市大学医学部附属病院 総合診療科/
 卒後臨床研修キャリア形成支援センター)
長野 広之
(京都大学大学院医学研究科医療経済学分野)
瀧藤 重道
(グラムスキー薬局)

【研修目標】

・発熱と咳嗽で来院した患者に対して、尤度比を意識しながら肺炎の診断を行い、起因菌を想定しつつ、

 適切な抗菌薬選択を行うことができる
・喘鳴で来院した患者に対して、喘息およびCOPDの診断を適切に行い、さらに急性増悪に関する初期 

 治療を行うことができる
・喘息とCOPDにおける慢性期管理の概要について説明することができる、とくに、最新のエビデンス

 にも習熟しつつ、吸入デバイスの使い分けも説明することができる
・遷延性咳嗽、慢性咳嗽を主訴に受診した患者に対して問診、身体診察、画像検査などから鑑別診断を

 あげ、適切な診断、治療ができる

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